エレベーターのくまちゃん
僕が、初めて帝国劇場に足を運んだとき、ミーティングをすると言われ、地下の喫茶店「羅生門」へ、そこで、紹介されたのが、くまさん。とにかく凄い人だから、何かあったら聞けばいいと説明される。しかし、いったい誰なのか教えてもらえず。
そして、稽古場へ、なんとくまさんは、演出家よりも良い場所で椅子に座り腕を組んで、稽古を見ているではないですか!ますます、わからない人だ~。
どっちが、演出家だかわからんと、ぼやいた演出家もいましたが。(笑)
実は、この人、掃除のおじさんでした。!
でも、でも、凄いんですよ。そのすごさは、舞台が始まってわかりました。舞台が始まるとエレベーターを手動運転に切り替え、乗り込みます。
ここで、帝劇のフロアー構成を説明しますと
9階 稽古場、
8階 楽屋
7階 楽屋
6階 楽屋
5階 楽屋 照明・音響室
4階 衣装 床山
1階 舞台
B1階 楽屋口 オケボックス
B3階 奈落
B5階 奈落 稽古場
ザクッと、こんな感じですが、2機のエレベーターでこの階数をこなします。芝居によっては、100人近い出演者が行ったり来たりします。それに、スタッフと次の舞台の稽古に来る人達などなど・・・。
さあ、ここからです。くまちゃんの凄いところ、エレベーターの中は、音だけが聞こえます。くまちゃんは、どのタイミングで役者が動いてステージにいなければいけないのか全て把握しています。
重要な役の俳優さんは、エレベーターは、呼ばなくてもその階で止まって待っています。それが遅ければ、有名な俳優さんにも遅いと指摘します。なにかトラブルが発生すれば、すぐに気づき対処します。誰が、急いでいて、誰がエレベーターを必要としているのか、瞬時に判断します。必要ないと判断されれば、乗車拒否もあります。
よく若い俳優さんが、意地悪されたと言ったりしますが、それは、意地悪ではなくて、くまちゃんが必要ないと判断したわけで、若いから階段を使えと言う事か、芝居に関係ない移動だとばれてるわけですね。もちろん台本は持っていますが、なにか書き込んであるかというとそういうわけではなくて、稽古を見て舞台が始まる時には、体で覚えている感じです。まさに、これぞ職人芸ですね。
休みの日は、他の劇場の芝居も行きます。名古屋でも大阪でも、深夜バスに乗って、芝居を見て帰って行きます。
芝居をこよなく愛し、役者と交流しながら、みんなに愛されながら、舞台を支えてる。すばらしいですね。
くまちゃんは、もう退職なされてしまいましたが、こんな伝説の人と一緒に仕事を出来た事を今誇りに思う次第です。